2013.07.08

語られぬ東北 遠い政治 遠地避難者、憂う 参院選公示

候補者の第一声後に気勢を上げる支持者ら。震災復興策は語られなかった=4日午前、福岡市

候補者の第一声後に気勢を上げる支持者ら。震災復興策は語られなかった=4日午前、福岡市

 「復興を加速する」「被災者に寄り添う」。4日公示された参院選。東北の選挙区に立候補した各候補は、誰もが東日本大震災からの復興を訴えの軸に据えた。その陰で、被災地から遠く離れた地に目を向けると、復興が語られていない現実がにじむ。列島に浮かび上がる震災の「風化」。全国各地に避難する被災者は、望みを懸けた論戦にやるせなさを募らせる。
<復興の言葉なく>
 4日午前9時半、福岡市中心部の公園。福岡選挙区(改選数2)に立った自民現職が、500人を前に第一声を上げた。
 「衆参のねじれを解消し、政治を安定させよう」。阪神大震災で被災地支援に当たったボランティア経験があるというが、8分間の演説で「復興」の言葉はなかった。
 1時間後、100メートル離れた商業施設前。「一党独裁、アベノミクスにブレーキをかける」。7分間の熱弁を振るった民主新人も、復興政策を語らなかった。
 福岡県では、北九州市が一部の反対運動を押し切って宮城県石巻市の震災がれきの焼却処理に協力。被災地支援に熱心に取り組んだ県の一つだ。
 「被災地から遠いし、温度差もある。仕方がないと思う」。福島第1原発事故に遭い、福島県双葉町から1000キロ離れた福岡県福津市に移住した井戸川恒雄さん(53)は言う。
 婦人服販売店を営んでいたが、事故後、義弟を頼って両親らと移った。今は生計を立てるため病院職員として働く。
 町は大半が立ち入り禁止の帰還困難区域。「自分たちはもはや戻れない。避難先で町民が再スタートを切れる政策を打ち出してほしい」と望むが、福岡選挙区では1票を投じる選択肢がないと感じる。
<「震災今も続く」>
 20人もの候補者が立つ東京選挙区(改選数5)。どの選挙ポスターも「復興」の文字は見当たらない。
 「復興を二の次に考えてほしくない」。立川市で避難生活を送る吉田詔子さん(71)は残念がる。石巻市鮎川浜の自宅は津波で流された。夫のがん治療のため帰郷は諦めた。
 先日、故郷の仮設住宅で暮らす友人が電話でこぼした。「このまま仮設住宅で死ぬのかなあ」
 吉田さんは「震災は今も続いている。都会の政治家も目を向けてほしい」と涙ながらに訴える。
 衆参のねじれ解消が焦点の参院選。政治が安定すれば復興は本当に加速するのか。確信を持てない被災者は少なくない。
 石巻市で被災した大橋悌一さん(71)は被災1カ月後に横浜市に移った。「県外避難者のような少数の声を聞いてくれる政治であってほしい」
 古里は遠くなったが、政治は近い存在であってほしいと願う。

2013年07月05日河北新報朝刊

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