日本サーフィン連盟の大会で、2年連続の年間王者に輝いた北郷さん=いわき市
東日本大震災の津波で自宅が全壊し、父と祖母を亡くした福島県いわき市久之浜町の派遣社員北郷夕翔(ゆか)さん(27)が家族の死を乗り越え、サーフィンのアマチュア団体「日本サーフィン連盟(NSA)」の主催・公認大会で2年連続、年間王者に輝いた。「活躍することが支えてくれた人への恩返しになる」と、来季はプロ転向も視野にさらなる躍進を誓う。
久之浜港近くの小さな集落で育った北郷さんは、子どものころから海が遊び場だった。高校2年でサーフィンを始め、社会人になってからは仕事前の早朝に海へ通い技を磨いた。
大会で好成績を収めるようになったのは平成22年度。年間3位に輝き、さらなる活躍が期待された翌年、震災が起きた。北郷さんは海から離れた内陸部の仕事場にいて無事だったが、家族は自宅で津波に襲われたとみられ、祖母は震災の翌日に、父は49日目に遺体で見つかった。
「気分転換したらどうだ」。津波で流されたサーフィン用具を友人が手配し、県外での波乗りを誘われたが「心が受け付けなかった」。2カ月のブランクを経て茨城県の海に通い始めたものの、波にのまれるたびに津波の犠牲になった家族を思い体調を崩した。
平成24年3月ごろに開かれた旧友との同窓会。それぞれが被災者でありながら明るく振る舞う姿に勇気をもらい「ポジティブに生きることで父たちも喜んでくれるはず」と前を向いた。
NSAの大会は毎年、全国各地で約30戦開催され、成績の良かった7戦の合計ポイントで競う。北郷さんは約350人が登録する19歳から34歳の女性ショートボードクラスに出場、25年度は優勝2回、26年度もポイントの高い全日本選手権を初制覇するなどし、2年連続で年間チャンピオンになった。
子どものころから慣れ親しんだ海は家族を奪った。東京電力福島第一原発事故による汚染水の懸念もある。「そんな環境でも日本一になれた。自分次第で何とかなる」。来春のプロの選考会に挑むか、アマで3連覇を目指すかは未定だが「常に進化し続けるサーファーでありたい」。護岸工事が進む地元の海に通い続ける。
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